■番号
■3723749
主文
原判決を破棄する。本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人和田誠一郎の上告理由一の4について一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
1 Dは、平成二年六月二九日、すべての財産を上告人に包括して遺贈する旨遺言した。
2 Dは、平成二年七月七日死亡した。
同人の法定相続人は、妻である被上告人B1並びに子である被上告人B2、同B3、上告人及びEである。
3 Dは、相続開始の時において、第一審判決別紙物件目録の本件不動産の項の一ないし二九記載の不動産(以下「本件不動産一」などという。)及び同目録の売却済み不動産の項の(一)、(二)記載の不動産(以下「売却済み不動産(一)」などという。)を所有していた。
4 被上告人らは、上告人に対し、平成三年一月二三日到達の書面をもって遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
5 平成二年一二月一八日、本件不動産六ないし八につき、平成三年二月七日、本件不動産二、五及び二八につき、それぞれ相続を登記原因として上告人に所有権移転登記がされ、また、同日、本件不動産二九につき上告人を所有者とする所有権保存登記がされた。
6 上告人は、被上告人らから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受けた後、同人らの承諾を得ずに、売却済み不動産(一)を三億二七三二万〇四〇〇円で、同(二)を七二三七万五〇〇〇円で、それぞれ第三者に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。
二 被上告人らの本件請求は、遺留分減殺請求により被上告人らが本件不動産一ないし二九につき、本件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分(被上告人B1は四分の一、同B2、同B3は各一六分の一の割合の持分)を取得したと主張して、本件不動産一ないし二九につき右各持分の確認を求め、かつ、本件不動産二、五ないし八、二八及び二九につき、遺留分減殺を原因として、右各持分の割合による所有権一部移転登記手続を求めるものである。
なお、被上告人らからは、前記一3記載の不動産のほか普通預金債権、預託金債権等の相続財産が存在する旨の主張がされており、上告人からも、第一審判決別紙相続債務等目録記載の相続債務の存在等が主張されている。
三 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、被上告人らの請求を認容した。
1 上告人は、遺留分減殺の意思表示を受けた後、遺産を構成する売却済み不動産(一)、(二)を第三者に合計三億九九六九万五四〇〇円で売却し、その旨の所有権移転登記を経由したことにより、遺留分減殺請求により被上告人らに帰属した右各不動産上の持分を喪失させたから、被上告人らは、上告人に対し、右持分の喪失による損害賠償請求権を有する。
2 被上告人らは、本訴において、右各損害賠償請求権と上告人が相続債務を弁済したことにより被上告人らに対して有する各求償権とを対当額で相殺する旨意思表示した。
上告人が弁済したとする相続債務の額に被上告人B1は四分の一、同B2、同B3は各一六分の一の割合を乗じて求償権の額を算定すると、その額が右各損害賠償請求権の額を超えないことは明らかであるから、右求償権は相殺により消滅したというべきである。
3 そうすると、上告人主張の相続債務は、遺留分額を算定する上でこれを無視することができ、したがって、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定するまでもなく、被上告人らは、遺留分減殺請求権の行使により、本件不動産一ないし二九につき、本件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したというべきである。
四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
1 遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、前記事実関係の下では、被上告人らは、上告人に対し、遺留分減殺請求権の行使により帰属した持分の確認及び右持分に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができる。
2 被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。
被上告人らは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産一ないし二九につき、右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象であるDの全相続財産の相続開始時の価額の総和で除して得た割合の持分を当然に取得したものである。
この遺留分算定の方法は、相続開始後に上告人が相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これにより上告人が被上告人らに対して有するに至った求償権と被上告人らが上告人に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない。
五 そうすると、本件では相続債務は遺留分額を算定する上で無視することができるとし、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定することなく、被上告人らは本件各不動産につき本件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
その趣旨をいう論旨は理由があり、その余の点を判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
そして、右の点につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すことにする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
損害填補措置義務違反
(原告らの主張)
(ア) 商法654条,646条は,責任開始前又は保険期間中に,危険が生じないことになったか消滅したときには,保険契約者は保険料の全部又は一部の返還を求め,あるいは将来に向かって保険料の減額を請求できるとしているところ,本件においても同様の法理を考えることができる。
すなわち,被告NTTを保険者,電話加入者を保険契約者とみて,保険者側の事情により危険(電話設備負担金徴収の必要性と合理性があること及び電話加入権の財産的価値が保証されかつ譲渡によって投下資本の道があること)が消滅したときには,保険者(被告NTT)は保険料(電話設備負担金)の全部又は一部を保険契約者(原告ら電話加入者)に返還しなければならないというべきである。
(イ) また,上記解釈の法的根拠は,民法上の不当利得の規定(民法703条,704条)の根底にある公平の原理及び利益衡量に求めうる。形式的にみれば,被告NTTは電話設備負担金の返還を約束してはいない。
しかし,電話設備負担金が電電債と同様の使途に充てられ,その投下資本回収は譲渡によってなされていたところ,それが,被告NTTによる電話約款変更等の一方的行為によって譲渡の道が閉ざされ,電話加入者には損失が生じ,他方で被告NTTには利益が生じることになったことからすれば,公平原理上,被告NTTは損害を被った電話加入者に対して,その損害を填補すべき信義則上の義務があるというべきである。
(ウ) しかるに,被告NTTは損害填補措置をとらずに電話加入権を一方的に切り下げたのであるから,債務不履行がある。
(被告NTTの主張)
商法654条,646条は,一定の危険の存在を前提に保険料を設定した場合において,当該危険が生じないこととなった場合は,将来に向かって,保険料を減額するという規定である。しかし,施設設置負担金は,現実に発生した費用の一部を支払ってもらうものであって,将来の不確実な事故の保障のために予め支払う保険料とは全く性質が異なる。保険法理の言葉を借りるならば,既に保険事故が発生しているのであるから,保険料が返還されないことは当然であって,将来に向かった保険料の減額を定める商法654条,646条の法理の適用の余地はない。
また,原告らは,施設設置負担金徴収の必要性と合理性が消滅したから返還すべきと主張するが,そもそも,当該必要性と合理性があることは上述のとおりであり,原告らの主張は理由がない。
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